結論
外国人社員の早期離職は、入社からの最初の90日に兆候が現れることがあります。この期間に面談・育成・生活支援を行うことで、課題の早期発見と定着改善につながる可能性があります。原因は国籍や文化ではなく、労働条件の説明不足、役割のあいまいさ、相談先の不在、生活面の不安、成長実感の欠如など、職場と受け入れの設計にあることが多いものです。
本記事は、外国人を雇用する企業の人事・現場責任者に向けて、早期離職の兆候、定着しない主な原因(編集上の分類として7つに整理)、自社データでの原因の切り分け、入社90日の施策、面談シート、KPIを整理します。受け入れの段取りは外国人社員の受入準備チェックリストを、労務の土台は外国人社員の労務管理ガイドを参照してください。
早期離職の兆候と90日施策の全体像
早期離職には、事前に気づける兆候があります。次のようなサインが出たら、面談の頻度を上げます。
- 遅刻・欠勤・体調不良の増加
- 報告・相談が減り、口数が少なくなる
- ミスや手戻りが続き、表情が硬い
- 同僚との交流が減る、休憩を一人で過ごすようになる
- 「母国の家族」「お金」「別の仕事」の話が増える
90日施策の全体像は、「入社前〜30日で不安を取り除き、31〜60日で役割と成長を実感させ、61〜90日で自立と継続の意思を固める」という流れです。面談・育成・生活支援を、時間軸に沿って設計します。
兆候は、責める材料ではなく、支援のきっかけとして扱います。遅刻が増えた社員に注意だけをすると、かえって相談しにくくなります。まず「困っていることはないか」を、本人が理解できる言語で確認し、原因が仕事にあるのか生活にあるのかを切り分けます。兆候に早く気づくほど、打てる手は多くなります。逆に、退職を申し出た時点で初めて動くと、引き止めは難しく、原因も本音が聞けないまま終わりがちです。定着施策の本質は、辞める前の90日に、相談できる関係と役割の手応えを用意しておくことにあります。
定着しない7つの原因(編集上の分類)
ここでの「7つ」は、対策を考えやすくするための編集部による分類であり、これがすべてではありません。国籍や文化で原因を決めつけず、自社の状況に当てはめて使ってください。
| 原因(分類) | 現れやすい兆候 | 主な対策 |
|---|---|---|
| 1. 労働条件・仕事内容の認識のずれ | 「聞いていた話と違う」という不満 | 労働条件・業務を本人が理解できる方法で明示・再説明 |
| 2. 役割・評価のあいまいさ | 何を求められているか分からず不安 | 役割・目標・評価基準を明確化し、面談で確認 |
| 3. 相談先の不在 | 困りごとを一人で抱える | 相談窓口・メンターを設け、定期面談を実施 |
| 4. 生活面の不安 | 住居・通院・行政手続・金銭の悩み | 生活支援・同行・情報提供で不安を軽減 |
| 5. 成長実感の欠如 | 単調な作業の繰り返しで意欲低下 | 育成計画・段階的な目標・フィードバック |
| 6. 人間関係・孤立 | 職場での交流が乏しい | チームでの受け入れ、交流機会、指導担当の配置 |
| 7. 処遇・将来像の不透明さ | 昇給やキャリアが見えない | 処遇・キャリアの考え方を説明し、面談で共有 |
多くの場合、これらは複数が重なって起きます。原因を一つに決めつけず、面談と記録で切り分けることが大切です。特に「1. 認識のずれ」と「3. 相談先の不在」は、受け入れ側の準備で対応しやすい原因です。採用時に聞いていた仕事内容・労働条件と、実際が食い違うと、早い段階で不信につながります。入社前後に労働条件を本人が理解できる方法で改めて説明し、疑問をその場で解消しておくことは、認識のずれを減らし、離職防止につながる可能性があります。また、「4. 生活面の不安」は仕事の話ではないため見落とされがちですが、住居・通院・行政手続・送金といった生活の悩みは集中力や定着に影響します。仕事の相談と生活の相談を、別々の窓口でよいので両方用意しておきます。
自社データで原因を切り分ける
離職の原因は、印象ではなくデータで確認します。次を集めると、どの原因が効いているかが見えます。
- 離職の時期:入社何日目・何か月目で辞めているか(初期に集中するなら受け入れ設計を疑う)。
- 部署・担当者別:特定の部署・ラインに偏りがないか。
- 面談記録:面談で挙がった困りごとの傾向(生活・人間関係・仕事内容)。
- 勤怠の変化:離職前に遅刻・欠勤が増えていなかったか。
偏りが見つかったら、その部署の受け入れ・指導のやり方を見直します。国籍でくくって分析すると、本当の原因(説明不足や指導のばらつき)を見落とします。あくまで職場側の要因として切り分けてください。例えば「特定の国の人は続かない」という結論は、実際には「その国の人が集中している部署の指導が言葉任せになっていた」だけ、ということが珍しくありません。原因を人ではなく仕組みに求めると、再発を防ぐ改善につながります。退職者が出た場合は、可能な範囲で退職理由を記録し、同じ理由が繰り返されていないかを定期的に振り返ります。
入社前〜30日の施策
この時期の目的は、不安を取り除き、安心して働き始められる状態を作ることです。
- 労働条件の再確認(法定:明示/指針:理解できる方法):法定事項を書面等で明示し、母国語ややさしい日本語など本人が理解できる方法でも説明して、認識のずれを減らします。
- 安全・手順の教育(法定):安全衛生・作業手順を、図や実演を交えて教育し、理解を確認します。
- メンターの配置(推奨):日常の相談相手を決め、初週から声かけを行います。
- 生活立ち上げ支援(推奨):住居・銀行・携帯・通勤・ゴミ出しなど、生活の基盤を整えます。
- 初週・30日面談(推奨):不安・困りごとを早めに拾います。
受け入れ準備の具体的なタスクは受入準備チェックリストにまとめています。介護・建設など業種別の受け入れの流れは介護の採用・建設の採用も参考になります。
31〜60日/61〜90日の施策
不安が落ち着いたら、役割の実感と自立へ移行します。
31〜60日:役割と成長の実感
- できるようになった作業を言語化し、フィードバックする
- 次の目標(応用作業・任される範囲)を一緒に決める
- 60日面談で、仕事・生活・人間関係を確認する
- 日本語学習の継続を支援する
61〜90日:自立と継続の意思
- 独り立ちに向けた役割を任せ、達成を認める
- 処遇・キャリアの考え方を説明し、将来像を共有する
- 90日面談で、継続の意思と残る不安を確認する
- 労務・在留期限などの継続管理へ引き継ぐ
この時期のフィードバックは、「できていないこと」だけでなく「できるようになったこと」を具体的に伝えるのが要点です。人は成長の手応えがあると続けやすく、抽象的な励ましより、before/afterの事実で示すほうが伝わります。処遇や将来像の説明も、あいまいなままにせず、どういう条件でどう評価が上がるのかを、本人が理解できる言葉で共有します。将来像が見えないことは、原因分類の7番目にあたる離職要因です。90日を過ぎたら、施策を「特別なもの」で終わらせず、定期面談・育成・生活相談を通常の労務運用に組み込みます。特別扱いは長続きせず、仕組みに落として初めて定着します。
面談シート・上司/メンターの運用とKPI
面談は、記憶に頼らずシートで残します。次の面談シートを、時点ごとに使ってください。
| 時点 | 確認事項 | 対応・次アクション |
|---|---|---|
| 1日目 | 初日の不安、必要な道具・情報、相談先の周知 | 不足を即日解消、メンター紹介 |
| 30日 | 仕事の理解、生活の困りごと、人間関係 | 育成計画の調整、生活支援の手配 |
| 60日 | 役割の実感、成長の手応え、日本語学習 | 次の目標設定、学習機会の案内 |
| 90日 | 継続の意思、処遇の理解、残る不安 | 将来像の共有、継続管理へ引き継ぎ |
メンター制度を作るときは、次の点を決めておくと機能します。第一に、メンターは評価者(上司)と分けます。評価する人には、弱みや不安を話しにくいためです。第二に、メンターの役割と時間を明示します。「困りごとを聞き、必要なら人事や上司につなぐ」という役割を、業務の一部として時間を確保します。善意任せにすると続きません。第三に、メンター自身を支えます。文化や言語の違いで悩むのはメンターも同じなので、人事が定期的にメンターの相談に乗り、対応の型を共有します。こうした伴走の体制は、外国人社員だけでなく、日本人社員の定着にも効果があります。
上司・メンターの運用:メンターは評価者と分け、日常の相談役に徹します。上司は評価と育成計画を担い、両者で情報を共有します。KPIは、90日定着率・面談実施率・相談対応の平均日数などを、部署別に見ます。数値が悪い部署は、受け入れ・指導のやり方を見直します。事業主が配慮すべき事項は厚生労働省「外国人雇用対策」を、外国人材の活躍支援の考え方は経済産業省の高度外国人材の採用・活躍支援を参考にしてください。離職に伴う届出は厚生労働省「外国人雇用状況の届出」を確認します。
よくある質問
Q. 「7つの原因」は決まったものですか?
いいえ。対策を考えやすくするための編集部による分類です。実際には複数の原因が重なることが多く、国籍や文化で決めつけず、自社の面談記録やデータで切り分けることが大切です。
Q. なぜ最初の90日が重要なのですか?
入社初期は、仕事・生活・人間関係の課題が表面化しやすい時期です。90日を面談と育成で伴走すると、不安・認識のずれ・孤立を早めに把握し、自社データで改善効果を検証しやすくなります。
Q. 面談は誰が行うべきですか?
日常の相談はメンター、評価と育成計画は上司が担い、両者で情報を共有します。相談役と評価者を分けると、本人が困りごとを話しやすくなります。
Q. 定着の効果はどう測ればよいですか?
90日定着率、面談実施率、相談対応の平均日数などを部署別に見ます。特定の部署で数値が悪い場合は、受け入れや指導のやり方に原因があることが多いため、そこを見直します。
Q. 生活支援はどこまで会社が行うべきですか?
住居・行政手続・通院など、生活の不安は離職の一因になります。制度上求められる支援に加え、相談窓口や情報提供で不安を軽減すると効果的です。過度な私生活への介入は避け、本人の希望を尊重してください。
参考にした公式情報(一次資料)
最終事実確認:2026年7月21日。本記事の制度・手続に関する記述は、上記の公式一次情報に基づいて整理しています。法定義務と推奨対応、公的手数料と民間相場、施行済み制度と2027年4月施行の育成就労など将来施行の制度は分けて記載しています。制度運用は更新されるため、届出・申請の前に最新の公式情報をご確認ください。内容の誤りにお気づきの場合は編集部までご連絡ください。
定着の仕組みづくりを相談する
離職原因の切り分けや、90日の定着施策の運用について、現在の状況を確認しながら次の一歩を整理します。