結論|育成就労の給与は「最低賃金以上」だけでは不足
- 給与は、同じ業務と責任を担う日本人労働者と同等以上であることを説明・立証する必要があります。
- 2年目・3年目は技能修得度に応じた賃金格付けが必要です。転籍制限期間を1年超とする場合は、1年経過後の昇給その他の待遇向上も要件になります。
- 家賃・食費・水道光熱費は適正額と本人の理解・合意が必要。監理支援費を本人に負担させることはできません。
根拠:出入国在留管理庁「育成就労制度運用要領」第4章第10
「育成就労の給料は月額いくらにすればよいか」という問いに、全国共通の固定額はありません。受入企業は地域別・特定最低賃金を守るだけでなく、自社の日本人の賃金体系と照らし、同等以上であることを説明できる状態にする必要があります。
なお、本記事は本人に支払う賃金・雇用条件・控除を扱います。人材紹介、渡航、住居準備、監理支援費など受入企業が負担する総コストは、育成就労の費用|企業負担の内訳とコスト構造で別に整理しています。両記事の金額を混ぜないことが、見積もりと手取り説明の第一歩です。
育成就労の給与・給料を決める3つの基準
1.最低賃金を下回らない
育成就労外国人にも労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法などの労働関係法令が適用されます。勤務地の地域別最低賃金と、対象となる場合の特定最低賃金を確認し、時間額に換算して判定します。最低賃金は改定されるため、採用時だけでなく改定日ごとの再確認が必要です。
2.日本人が同じ業務に従事する場合の報酬と同等以上にする
育成就労法第9条の認定基準では、育成就労外国人の報酬額が、日本人が当該業務に従事する場合の報酬額と同等以上であることを求めています。比較対象がいる場合は、職務内容と責任の程度が同等であることを整理し、基本給や課税対象の手当などを含む報酬が同等以上であることを立証します。
同程度の技能を有する日本人がいない場合も、比較を省略できるわけではありません。賃金規程があればその等級・号俸、なければ職務と責任が最も近い日本人労働者との違いを用いて説明します。比較表には「誰と比べたか」「どの職務・責任が同じか」「手当の差に合理的な理由があるか」を残すと、計画認定と監査の双方で確認しやすくなります。
3.受入れにかかる費用を理由に給与を下げない
技能検定等の受験料、監理支援機関に支払う監理支援費、教育・管理の社内コストを理由に、育成就労外国人の報酬を低く設定することは認められません。会社の負担コストと、労働の対価である本人の報酬は分けて設計します。時間外・深夜・休日労働を行わせる場合は、法令に従った割増賃金の支払いも必要です。
| 確認軸 | 実務で残す根拠 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 最低賃金 | 勤務地、業種、時間額換算 | 月給の総額だけで判定する |
| 日本人同等以上 | 比較対象、職務、責任、賃金表 | 「最低賃金以上」だけで完了する |
| 手当・賞与 | 支給基準と日本人との差の理由 | 外国人であることだけを理由に不支給 |
| 割増賃金 | 勤怠、36協定、給与明細 | 固定残業代の内訳・超過分が不明 |
雇用条件書で明確にする項目
育成就労計画の認定申請では、雇用契約書と雇用条件書の写し、日本人と同等以上の報酬であることの説明書、本人が定期的に負担する費用の内訳と適正性を説明する書類が確認対象になります。採用時の口頭説明だけでは足りません。
| 雇用条件 | 明確にする内容 | 実務チェック |
|---|---|---|
| 契約期間 | 開始日・終了日、更新の有無と判断基準 | 育成就労計画の期間と一致 |
| 就業場所・業務 | 雇入れ直後の場所と業務、変更の範囲 | 求人情報、計画、実際の配置を整合 |
| 労働時間 | 始業・終業、休憩、休日、シフト、時間外労働 | 指導体制がない時間帯の就業を避ける |
| 賃金 | 基本給、手当、割増賃金、計算方法、締日・支払日 | 控除前と控除後の見込みを区別 |
| 昇給・賞与 | 有無、判定時期、技能等級との関係 | 「あり」だけでなく条件を説明 |
| 休暇・保険 | 年次有給休暇、一時帰国、社会保険、労働保険 | 日本人と別運用にしない |
| 宿泊・負担費 | 家賃、食費、水道光熱費、給与控除の方法 | 内訳、算定根拠、本人合意を保管 |
待遇を設定したり変更したりするときは、育成就労実施者または監理支援機関の職員が本人に対し、母国語で詳細に説明し、理解を確実に得ることが必要です。母国語を併記した「育成就労の期間中の待遇に関する重要事項説明書」(参考様式第1-13号)を作成し、提出不要の場合でも企業側で保管します。採用時の説明と契約締結後の条件を安易に変えない運用も重要です。
昇給はどう設計するか
全国一律の昇給額・昇給率はない
2026年7月19日時点で、全分野に共通する「毎年○円」「毎年○%」といった一律の数値はありません。一方、運用要領は、継続受入れの場合には2年目・3年目の賃金を前年より上げるなど、技能の修得度に応じた賃金格付けを行い、学習意欲の向上につなげることが必要としています。
そのため、基本給を採用時だけ決め、3年間固定する設計は避けます。実務では、担当できる作業、技能評価試験、品質・安全、日本語での業務理解、後輩への支援など、職務に必要な基準と賃金等級を紐づけます。同じ等級の日本人と同じ基準で判定することが原則です。
転籍制限期間が1年を超える場合の追加要件
転籍制限期間は分野別運用方針により1年以上2年以下の範囲で定められます。受入企業が1年を超える期間を設定する場合は、1年経過後に昇給その他の分野別運用方針で定める待遇向上を図ることが必要です。具体的な内容は分野ごとに異なるため、自社が対象とする最新の分野別運用方針を必ず確認します。
分野で転籍制限期間が1年超と定められていても、企業の判断で1年とすることは可能です。この場合、「1年超を設定した場合の特別な待遇向上」は義務づけられません。ただし、日本人同等以上や技能修得度に応じた賃金設計は別の基準として残ります。転籍の全体条件は育成就労の転籍ルール完全ガイドをご覧ください。
現在の賃金表、雇用条件書、家賃・食費等の内訳を伺い、育成就労への移行で確認すべき論点と優先順位を整理します。
給与からの控除・天引きで守ること
税金・社会保険料とその他の控除を分ける
所得税、住民税、健康保険、厚生年金、雇用保険など、法令に基づく本人負担は給与から控除されます。それ以外の家賃、食費、水道光熱費、社内費用などを賃金から控除する場合は、労働者の過半数で組織する労働組合または過半数代表者との書面による労使協定を確認します。本人の同意書だけで賃金全額払いの原則の例外になるわけではありません。
家賃・食費・水道光熱費は「適正額」の根拠を残す
本人が定期的に負担する費用は、提供される食事や宿泊施設などの内容を本人が十分に理解し、企業と合意していること、そして実費相当など適正な額であることが必要です。
- 食費:購入した食材・弁当は実際の購入額以内。社員食堂は他の従業員から徴収する額以内を基本とします。
- 借上住居の居住費:定期的に発生する賃料・管理費等を入居者数で除した額以内。敷金・礼金・保証金・仲介手数料等はこの定期費用に含まれません。
- 水道光熱費:実際の費用を同居者の合計人数で除した額以内とし、請求書などを提示できるようにします。
値上がりによって負担額を変える場合も、事前に根拠を説明し、理解を得ます。給与明細には「宿舎費」とまとめるのではなく、家賃、水道光熱費、食費を分けると本人が手取りを確認しやすくなります。
監理支援費は直接にも間接にも負担させない
監理支援機関が受入企業等から徴収する職業紹介費、講習費、監査指導費、その他諸経費に当たる監理支援費は、育成就労外国人に直接・間接を問わず負担させられません。送出機関を経由して「講習費」として支払わせる形も間接負担に当たると運用要領に示されています。
給与の支払方法と記録保管
報酬は、本人が指定する金融機関の口座への振込み、または実際に支払われた額を確認できる方法で支払います。口座振込みは本人に説明し、同意を得た上で雇用契約に定めます。現金払い等を行う場合も、給与明細の写しと報酬支払証明書など、実際の支払額が分かる記録を保管します。
毎月の運用では、雇用条件書、勤怠記録、給与台帳、給与明細、振込明細の数値が一致するかを確認します。給与明細は日本語の項目名だけにせず、本人が基本給、残業代、法定控除、住居費等の意味を理解できるよう、翻訳付きの用語集や母国語の説明資料を用意すると誤解を減らせます。
受入企業の実務チェックリスト
募集・雇用契約前
- 就業場所の最低賃金と対象となる特定最低賃金を確認した
- 比較対象とする日本人の職務・責任・賃金を書面化した
- 求人情報と雇用条件書の基本給、手当、勤務時間、就業場所が一致している
- 2年目・3年目の技能等級と賃金改定の基準を設定した
- 家賃・食費・水道光熱費の内訳と算定根拠を用意した
契約時・計画認定申請時
- 雇用契約書、雇用条件書、報酬同等以上の説明書の数値が一致している
- 母国語を併記した重要事項説明書で、控除後の手取り見込みまで説明した
- 転籍制限期間と、1年超の場合の待遇向上を計画に反映した
- 住居費等を賃金控除する場合の労使協定と本人合意を確認した
- 雇用条件の変更が計画の変更認定・届出の対象にならないか確認する担当を決めた
毎月の給与計算・支払時
- 勤怠と割増賃金の計算、固定残業代の超過分を確認した
- 家賃等の控除額が合意額と一致し、実費資料を示せる
- 振込明細または報酬支払証明書を保管した
- 給与明細の内容と手取り額を本人が理解できる方法で説明できる
- 最低賃金、賃金規程、日本人の比較対象の変更を定期的に再点検している
受入れ全体の準備は受入企業向け育成就労の受入れ完全ガイド、申請書類と計画の整合は育成就労計画の認定申請ガイドもあわせてご確認ください。
育成就労の給与・雇用条件のよくある質問
育成就労の給与は全国一律ですか?
いいえ。全国一律の固定額はありません。勤務地の最低賃金を守った上で、同じ業務・責任の日本人と同等以上の報酬であることを立証します。
最低賃金と同額にすれば問題ありませんか?
日本人の比較対象の報酬がそれより高い場合、最低賃金を満たすだけでは不足です。外国人であることを理由に低い賃金にすることはできません。
家賃や食費は給与から控除できますか?
実費相当など適正な額で、本人が提供内容と負担額を十分に理解して合意している必要があります。賃金からの天引きには、法令に基づく控除を除き、過半数労働組合または過半数代表者との書面による労使協定も確認します。
育成就労外国人は毎年必ず昇給しますか?
全分野共通の一律な昇給額はありません。ただし、運用要領は2年目・3年目に技能修得度に応じた賃金格付けを行うことが必要としています。転籍制限期間を1年超とする場合は、1年経過後の昇給その他の分野別の待遇向上が追加要件です。
賞与や福利厚生を対象外にできますか?
外国人であることだけを理由に、賞与を支給しない、社員住宅や福利厚生施設を利用させないといった差別的取扱いは認められません。職務や雇用区分による差がある場合は、日本人にも同じ基準を適用し、合理的に説明できるようにします。
監理支援費を「管理費」として給与から引けますか?
できません。監理支援費は本人に直接にも間接にも負担させられません。適法に徴収できる実費相当の家賃・食費等と混同しないようにします。
公式出典と未確定事項
本記事は、2026年7月19日時点で公開されている以下の一次資料を基に整理しています。
- 出入国在留管理庁「育成就労制度運用要領」(待遇、報酬、昇給、定期負担費、支払方法)
- 出入国在留管理庁「育成就労制度運用要領 第4章」(計画認定の添付書類)
- 出入国在留管理庁「育成就労制度」(制度ハブ・最新更新)
- 厚生労働省「労働条件・職場環境に関するルール」(最低賃金・賃金控除)
- 厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
未確定・分野別に確認が必要なもの
全国一律の月給額・昇給額は定められていません。また、1年超の転籍制限期間を設定する場合の待遇向上は分野別運用方針によって異なります。実際の契約作成時は、対象分野の最新方針、勤務地の最低賃金、自社の賃金規程を照合してください。
この記事の確認情報
公開日:2026-07-19/最終事実確認日:2026-07-19/編集・事実確認:FRM Journal編集部
本記事は一般的な制度情報であり、個別案件の法律・労務助言ではありません。内容の誤りや更新漏れは編集部へ訂正をご連絡ください。
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受入企業・監理団体の現在の運用を伺い、日本人比較、昇給、家賃等の控除、説明書類の整合に関する確認項目を整理します。その場で導入を決める必要はありません。
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