結論
特定技能1号の受け入れでは、義務づけられた支援を自社で実施する(自社支援)か、登録支援機関へ委託するかを選べます。判断の分かれ目は、支援責任者・支援担当者を社内に置けるか、外国人が理解できる言語で相談体制を安定して回せるか、そして支援の全部を委託して受入基準を満たす方が総コストと安全性で優れないか、の3点です。
本記事は、特定技能外国人を受け入れる企業の担当者に向けて、自社支援の要件、義務的支援10項目の担当分け、全部委託・一部委託・自社支援の比較、年間コストの考え方、適性診断、切り替え手順を、出入国在留管理庁の公開情報に基づいて整理します。委託先そのものの比較・選定は登録支援機関の選び方で扱い、本記事は「自社でやるか、任せるか」の判断に絞ります。
結論:自社支援できる企業・難しい企業
特定技能1号を受け入れる企業(特定技能所属機関)は、1号特定技能外国人支援計画を作成し、その支援を適正に実施する義務を負います。支援は自社で行っても、登録支援機関へ委託しても構いません。まず、次の傾向で自社の向き・不向きを大まかに把握してください。
| 自社支援が向きやすい企業 | 委託が向きやすい企業 |
|---|---|
| 過去2年間に中長期在留者の受け入れ・生活支援の実績があり、担当できる人を社内に確保できる | 初めての受け入れで、支援の実績や体制がまだない |
| 外国人が十分理解できる言語で相談に応じられる(社内人材・通訳の手当てができる) | 対応言語の人材が社内におらず、随時の通訳確保も難しい |
| 1拠点・少人数で、支援担当者が生活相談まで目を配れる | 拠点が分散、または受け入れ人数が多く、支援の抜けが起きやすい |
| 定期面談・相談記録・行政届出を、様式に沿って継続運用できる | 記録・届出の運用を社内で回す余力がない |
ここでの「向き・不向き」は法的な可否ではなく、無理なく続けられるかの目安です。要件を満たせば自社支援は可能ですが、支援は雇用期間を通じて続く業務であり、担当者の異動や繁忙期にも途切れさせない設計が要ります。
自社支援の要件と受入企業に残る責任
支援を自ら行う(委託しない、または一部だけ委託する)場合、受入企業は支援計画を適正に実施できる体制を自社で満たす必要があります。主な要件は次のとおりです。詳細な基準は出入国在留管理庁「特定技能に関する手続」で公開されている運用要領・様式で確認してください。
- 支援責任者・支援担当者の選任:支援計画の実施を統括する支援責任者と、実際に支援を行う支援担当者を選任します。支援担当者は支援責任者を兼ねることができます。
- 中立性:支援担当者は、外国人を監督する立場から独立し、中立的に相談へ対応できる者であることが求められます。
- 受け入れ・支援の実績または同等の体制:過去2年間に中長期在留者の受け入れ・管理を適正に行った実績があること、または同等に支援を実施できると認められる体制があること。
- 相談・苦情に応じられる言語体制:外国人が十分に理解できる言語で、相談・苦情に対応できること。
一方で、支援の全部を登録支援機関へ委託した場合は、受入企業自身がこれらの支援体制に関する基準を満たさなくても、支援計画を適正に実施できるものとして扱われます。ただし、これは「支援の実施」を委ねられるという意味であり、次の責任は委託後も受入企業に残ります。
- 雇用主・特定技能所属機関としての労働条件の確保、賃金の適正な支払い
- 各種届出(随時届出・定期届出など)の義務
- 在留資格・就労範囲・在留期限の把握と、委託先との連携
- 支援に要する費用を、外国人本人に直接・間接に負担させないこと
つまり「全部委託すれば会社は何もしなくてよい」わけではありません。委託は支援の実務負担を減らす手段であり、雇用主としての義務まで消えるものではない、という前提で判断します。
義務的支援10項目の作業・担当者
支援には、必ず行う義務的支援と、任意で行う任意的支援があります。義務的支援は次の10項目です。自社支援・委託のどちらでも、誰がどの方法で実施するかを明確にしておきます。委託する場合でも、登録支援機関は委託を受けた支援業務の実施をさらに別の者へ委託することはできません(通訳者などを履行補助者として活用することは可能です)。
| 義務的支援10項目 | 主な作業 | 自社支援時の想定担当 |
|---|---|---|
| 1. 事前ガイダンス | 労働条件・活動内容・入国手続・支援内容の事前説明 | 人事・支援担当者 |
| 2. 出入国する際の送迎 | 入国時の空港等から事業所・住居への送迎、帰国時の保安検査場までの送迎 | 現場・総務 |
| 3. 住居確保・生活に必要な契約支援 | 住居探し・賃貸契約の補助、銀行口座・携帯・ライフラインの契約補助 | 総務・支援担当者 |
| 4. 生活オリエンテーション | ルール・公共機関・災害時対応・相談窓口などの説明 | 支援担当者 |
| 5. 公的手続等への同行 | 市区町村・社会保険・税などの手続への同行と書類作成補助 | 総務・支援担当者 |
| 6. 日本語学習の機会の提供 | 日本語教室・教材・オンライン学習などの情報提供と機会確保 | 人事・支援担当者 |
| 7. 相談・苦情への対応 | 理解できる言語での相談受付、内容に応じた助言・関係機関の案内 | 支援担当者(通訳) |
| 8. 日本人との交流促進 | 地域行事の案内、社内交流の機会づくり | 現場・支援担当者 |
| 9. 転職支援(非自発的離職時) | 受入側の都合で雇用が続けられない場合の、次の受け入れ先を探す支援 | 人事 |
| 10. 定期的な面談・行政機関への通報 | 支援責任者等が本人と監督者にそれぞれ3か月に1回以上面談し、労働基準法令違反等を把握した際は通報 | 支援責任者 |
この表の「担当」は一例です。自社の人員に合わせて割り当て、面談記録や相談記録の保存方法まで決めておくと、担当者が代わっても支援が途切れません。
全部委託・一部委託・自社支援の比較
支援は「全部委託」「一部委託」「自社支援(委託なし)」の3通りで設計できます。それぞれの特徴を整理します。
| 観点 | 全部委託 | 一部委託 | 自社支援 |
|---|---|---|---|
| 支援体制基準 | 受入企業側の支援体制基準を自社で満たさなくてよい | 自社実施分について支援体制を満たす必要がある | 支援体制基準を自社で満たす必要がある |
| 社内負担 | 小さい(連携・確認が中心) | 中(分担の設計と管理が必要) | 大きい(実施と記録を自社で) |
| 費用 | 委託費が継続的にかかる | 委託費+自社人件費 | 主に自社人件費 |
| ノウハウの蓄積 | 社内に貯まりにくい | 一部蓄積 | 社内に貯まる |
| 向く場面 | 初めての受け入れ・少人数・体制未整備 | 言語対応だけ委託等、役割を分けたい | 実績と担当者があり、継続的に受け入れる |
一部委託にする場合は、義務的支援10項目のどれを自社が行い、どれを委託するかを分担表にして、支援計画と委託契約の内容が食い違わないようにします。分担が曖昧だと「相手がやると思っていた」という抜けが起きます。
年間TCOの計算方法
自社支援と委託は、月額の委託費だけでなく、社内の人件費・通訳費・交通費まで含めた年間の総保有コスト(TCO)で比べます。公的手数料(在留諸申請にかかる手数料など、制度で定まるもの)と、民間の相場(委託費・通訳費など事業者ごとに異なるもの)は分けて考えます。金額は事業者・地域・人数で変わるため、次のテンプレートに自社の見積もりを記入して比較してください。
| 費目 | 区分 | 自社支援(年額) | 全部委託(年額) |
|---|---|---|---|
| 支援担当者・責任者の人件費(支援に充てる時間分) | 自社人件費 | __円 | __円(連携・確認分) |
| 通訳・翻訳の手配費 | 民間相場 | __円 | (委託費に含む/別途)__円 |
| 登録支援機関への委託費(月額×12) | 民間相場 | 0円 | __円 |
| 送迎・同行の交通費 | 実費 | __円 | __円 |
| 日本語学習の機会提供にかかる費用 | 実費 | __円 | __円 |
| 在留諸申請の手数料など | 公的手数料 | __円 | __円 |
| 年間合計 | — | __円 | __円 |
費用の内訳をさらに詳しく確認したい場合は、特定技能の受入費用で初期費用・月額・1年総額の計算方法を解説しています。委託費の相場観は登録支援機関の費用相場も参考にしてください。なお、支援に要する費用を特定技能外国人本人に負担させることはできません。
自社支援適性20項目診断
自社支援に踏み出せるかを、体制・言語・運用・費用の観点で確認します。「はい」が多いほど自社支援の現実味が高く、「いいえ」が多い項目は、委託または体制の補強が必要な箇所です。
- ☐ 支援責任者を担える管理職を選任できる
- ☐ 支援担当者を、外国人を監督する立場から独立して選任できる
- ☐ 過去2年間に中長期在留者の受け入れ・支援の実績がある、または同等の体制を用意できる
- ☐ 外国人が理解できる言語で相談に応じられる(社内人材か通訳を確保できる)
- ☐ 入国時の送迎、帰国時の送迎を手配できる
- ☐ 住居探し・賃貸契約・ライフライン契約を補助できる
- ☐ 生活オリエンテーションを実施し、記録を残せる
- ☐ 市区町村・社会保険・税などの公的手続に同行できる
- ☐ 日本語学習の機会(教室・教材・オンライン)を案内・確保できる
- ☐ 相談・苦情を受け付け、内容に応じて関係機関へつなげる
- ☐ 地域行事・社内交流など、日本人との交流機会をつくれる
- ☐ 非自発的離職時に、次の受け入れ先を探す転職支援ができる
- ☐ 支援責任者等による本人・監督者との定期面談を、3か月に1回以上実施できる
- ☐ 面談記録・相談記録を様式に沿って保存できる
- ☐ 随時届出・定期届出を期限内に作成・提出できる
- ☐ 在留カード・在留期限・就労範囲を継続的に把握できる
- ☐ 担当者の異動・休職時に、代替担当を用意できる
- ☐ 支援にかかる費用を本人に負担させない運用になっている
- ☐ 支援に充てる人件費・実費を年間で見積もれる
- ☐ 受け入れを継続する予定があり、ノウハウを蓄積する意義がある
目安として、「はい」が16以上なら自社支援を具体的に検討でき、10〜15なら一部委託で役割を分けるのが現実的、9以下なら当面は全部委託を軸に、体制を整えながら段階的に内製化を検討する、といった読み方ができます。これは編集部による整理であり、法的な合否判定ではありません。
委託から自社支援へ切り替える手順
すでに委託している支援を自社に切り替える場合は、支援の空白を作らない順序で進めます。
- 現契約と支援状況の確認:委託契約の解約予告・引継ぎ条件、現在の支援記録、次回以降に予定されている支援を確認します。
- 自社体制の準備:支援責任者・支援担当者を選任し、言語対応・記録様式・面談頻度を決めます。適性診断で「いいえ」だった項目を補強します。
- 支援計画・契約の見直し:支援計画の実施主体を自社に変更し、必要な届出を確認します。委託先や支援方法など支援計画の記載事項が変わる場合は、変更に係る届出を期限内に行います。
- 本人への説明と引継ぎ:相談窓口が変わることを、本人が理解できる言語で説明し、支援履歴と今後の予定を移します。
- 初期の伴走:切り替え直後は面談頻度を上げ、抜けがないかを確認します。
届出の要否や様式は変更内容によって異なります。判断に迷う場合は、管轄の地方出入国在留管理局または専門家に確認してください。
よくある質問
Q. 支援の全部を委託すれば、会社は支援の要件を満たさなくてよいのですか?
支援の実施を全部委託した場合、受入企業側の支援体制に関する基準を自社で満たさなくても、支援計画を適正に実施できるものとして扱われます。ただし、雇用主・特定技能所属機関としての労働条件確保・届出・在留管理などの責任は、委託後も受入企業に残ります。
Q. 支援の一部だけを自社で行うことはできますか?
できます。一部委託の場合、自社が実施する部分については支援体制の基準を満たし、支援計画全体を適正に実施する責任を負います。義務的支援10項目の分担表を作り、支援計画と委託契約の内容を一致させてください。
Q. 登録支援機関は、委託された支援をさらに別の会社へ任せられますか?
登録支援機関は、委託を受けた支援業務の実施をさらに別の者へ委託することはできません。通訳者などを履行補助者として活用することは可能です。委託前に、実際に誰が支援を行うのかを確認してください。
Q. 支援にかかる費用を、外国人本人の給与から差し引いてよいですか?
いいえ。支援に要する費用を、特定技能外国人本人に直接または間接に負担させることはできません。給与控除や別名目での徴収になっていないか確認してください。
Q. 自社支援と委託、どちらが安いですか?
一概には言えません。委託費が継続的にかかる委託に対し、自社支援は主に自社人件費で成立しますが、担当者の時間・通訳・交通費まで含めた年間総額(TCO)で比較すると逆転することもあります。本記事のTCO表に自社の見積もりを記入して判断してください。
参考にした公式情報(一次資料)
最終事実確認:2026年7月21日。本記事の制度・手続に関する記述は、上記の公式一次情報に基づいて整理しています。法定義務と推奨対応、公的手数料と民間相場、施行済み制度と2027年4月施行の育成就労など将来施行の制度は分けて記載しています。制度運用は更新されるため、届出・申請の前に最新の公式情報をご確認ください。内容の誤りにお気づきの場合は編集部までご連絡ください。
自社支援の可否と進め方を相談する
支援体制の要件、担当者の負担、委託先の見直しについて、現在の運用と課題を確認しながら次の一歩を整理します。