結論|A2目標講習の提供だけでは、合格率は自動的には上がりません
- 優良な育成就労実施者の配点では、A1相当試験の合格率が50%未満で−7点、A2相当試験の合格率が50%未満で−10点という減点区分があります(運用要領4-118〜4-121頁)。講習の実施と試験の合格率は別の評価対象であり、講習時間だけから合格率を判断することはできません。
- 講習以外の日本語学習支援を加点(⑨・2点)とみなす要件は「同時双方向」です。単に教材のみを提供し独習を支援する形態は加点対象外と明記されています(運用要領4-127頁)。
- 就労開始後に自主学習支援を行う場合、参加を強制して業務として行えば労働時間・賃金の対象になります(運用要領4-48頁)。
- 無料の自習教材(いろどり・みなと等)は本人の自習に役立ちますが、学習が止まったこと・目標水準までの距離を企業側から把握する仕組みは別途必要です。
根拠:出入国在留管理庁・厚生労働省「育成就労制度運用要領(令和8年8月版)」(4-48頁、4-49頁、4-118〜4-121頁、4-127頁)(最終確認日:2026-09-18)
育成就労実施者(受入企業)には、原則として、育成就労外国人がA2目標講習(100時間以上)を受講する機会を提供することが必要です(A2相当の試験に既に合格している場合など、提供義務がない例外もあります)。この機会を提供したことと、A2相当の日本語試験に合格することは別の論点です。育成就労の優良要件(項目Ⅰ)のうち、④A1合格率・⑤A2合格率・⑦2年目終了までのA2合格者割合では日本語試験の合格率・合格者割合が評価され、⑨では講習以外の学習支援が同時双方向であることを条件に別途評価されます。本記事は、加点⑨の要件、自主学習支援の労働時間の扱い、無料教材の限界を、出入国在留管理庁の一次資料に沿って整理します。日本語要件全体の枠組みは「育成就労の日本語要件」で先にご確認ください。
A2目標講習を終えても合格率が自動的には上がらない理由
優良な育成就労実施者の配点(項目Ⅰ・最大50点)には、日本語試験の合格率に応じた加点・減点区分があります。
| 項目 | 配点 | 加点の目安 | 減点 |
|---|---|---|---|
| ④ A1相当試験の合格率 | 7点 | 75%以上=7点/60%以上75%未満=4点/50%以上60%未満=0点 | 50%未満:−7点 |
| ⑤ A2相当試験(目標)の合格率 | 10点 | 80%以上=10点/70%以上80%未満=6点/60%以上70%未満=2点/50%以上60%未満=0点 | 50%未満:−10点 |
| ⑦ 2年目終了までのA2合格者割合 | 4点 | 50%以上=4点/30%以上50%未満=2点 | — |
いずれも受験実績がない場合は0点です(運用要領4-118〜4-121頁)。この配点構造から読み取れるのは、50%・60%・70%・80%という複数の合格率の節目が設けられているということ自体、100時間の講習を提供しただけで自動的に高い合格率へ到達するとは想定されていないということです。断定的な統計を示すことはできませんが、講習の提供(時間数の要件を満たすこと)と、合格率の管理(試験に向けた学習の進み方を把握すること)は、別の管理項目として扱う必要があります。配点全体の内訳は「優良な育成就労実施者の配点」で解説しています。
加点⑨は「同時双方向」が要件です
A1相当講習・A2目標講習以外に、費用を全額負担して行う日本語学習支援は、優良要件の加点⑨(2点)の対象になり得ます。ただし、要件は明確です。
「講師と育成就労外国人が、同時に双方向に意思疎通がとれる形態で実施していることが必要となります。そのため、単に教材のみを提供し、独習を支援する形態によるものは加点対象とはなりません。また、単に日本語学校を紹介すること、日本語学習のみの時間を育成就労中に設定すること、職員との日常会話の機会を増やすことといった対応のみでは、日本語学習の支援を行っているとはいえません。」(出入国在留管理庁・厚生労働省「育成就労制度運用要領」4-127頁)
該当する例として、運用要領は次の3つを挙げています(同4-127頁)。
- ア 育成就労外国人が日本語教育機関や地方自治体、NPO法人等が運営する日本語教室で受講等する際の金銭的支援をすること
- イ 日本語教員等の外部講師を招いて育成就労外国人の日本語教育を実施すること
- ウ 育成就労実施者自身が教材を用意し日本語講習を実施すること
アとイは外部の教室・講師を使う方法、ウは自社で講習を実施する方法です。いずれの場合も、費用が発生する場合は育成就労実施者が負担している必要があります。ここで重要なのは、使用するツールや教材の種類ではなく、講師との同時双方向のやり取りが伴っているかどうかが判断基準になっている点です。単に教材やアプリを配布して独習させるだけの形態は、内容が優れていたとしても、この要件には該当しません。
自主学習支援の建付け|強制して業務として行えば労働時間
A2目標講習そのものの受講時間を労働時間とすることは義務ではありません(運用要領4-49頁)。一方、加点⑨として行う追加の学習支援を、就労開始後の時間を使って行う場合は、労働時間としての扱いに別途注意が必要です。運用要領は、雇用契約に基づく就労開始後に育成就労実施者が講習を実施する場合について、次のように整理しています。
「育成就労外国人の参加を強制して業務として行う場合は、労働基準法上の労働時間として賃金の支払対象となる。」(運用要領4-48頁)
この考え方は、A2目標講習の受講時間の扱い(受講時間を労働時間とすることは義務ではないが、参加を義務付け業務として行う場合は労働時間となる)と同じ枠組みです。加点⑨として行う追加の学習支援を検討する際は、あらかじめ「参加を任意とするか、業務として組み込むか」を整理し、業務として組み込む場合は労働時間・賃金の扱いを社会保険労務士等に確認しておくことが望ましいと考えられます。
無料教材で何ができ、何が見えなくなるか
国際交流基金が提供する「いろどり 生活の日本語」や、日本語学習サイト「JFにほんごeラーニング みなと」のように、無料で使える自習教材・学習プラットフォームは複数あります。こうした教材は、本人が自分のペースで学習を進める手段として有用です。ただし、次の2点には注意が必要です。
- 加点⑨の要件には該当しません。 教材の提供のみ・独習の支援のみは、講師との同時双方向のやり取りを伴わないため、加点対象外です(4-127頁)。
- 学習の状況が企業・監理支援機関から見えにくくなります。 自習形式には、進捗を外側から把握する仕組みが備わっていないことが多く、「学習が止まっていること」「目標水準までの距離がどう変化しているか」を、教材の外側から確認する手段を別に持つ必要があります。
無料教材そのものを否定する趣旨ではありません。費用をかけずに学習の選択肢を増やす手段として有効です。ただし、それだけで運用を完結させると、受験の期限・到達の推移・学習の停止という3つの管理項目(次節)が見えなくなる、という点を押さえておく必要があります。
公表資料に基づく一般的な整理(加点⑨の該当例チェックリスト、継続学習の実施計画シート、労働時間の考え方の整理メモ)を無料資料でご用意しています。個別案件への当てはめ、書類の作成・添削は行いません。
育成就労アップデート便に登録する
二国間取決めの締結状況、日本語講習の提供機関、登録日本語教員数、様式の公表、試験日程などの時点情報を、一次資料の日付付きで月1回お届けします。
模試を測定点に使う
正式な受験の間隔が空く時期でも、学習の進み具合を確認する測定点は用意できます。国際交流基金がJFT-Basic公式サイトで公開しているサンプル問題や、模擬形式の練習問題を、正式受験の前後で使うと、スコアの動きを追いやすくなります。ここで測定した結果は、あくまで学習状況を把握するための参考値であり、正式な判定結果通知書に代わるものではありません。詳細な内容・最新の公開状況は各提供元の公式サイトでご確認ください。
3つの管理項目との対応
ここまでの内容は、受入企業・監理支援機関が日本語学習の状況を見るときの3つの管理項目(①受験の期限、②到達の推移、③再受験と学習継続)のうち、主に③に関わるものです。
| 管理項目 | 本記事での対応 |
|---|---|
| ①受験の期限 | 1年目・3年目の受験義務、基本頻度(詳細は「育成就労の日本語試験はいつ・何回受けさせるか」) |
| ②到達の推移 | JFT-Basicのスコア帯・模試(詳細は「JFT-Basicのスコア帯運用」) |
| ③再受験と学習継続 | ②再受験率(加点対象)、加点⑨の要件、学習停止の検知(本記事) |
3項目をまとめて記録・共有する視点は「外国人社員の日本語学習「進捗が見えない」を測る3項目」で扱っています。自社の受験者数・合格者数を入力して見込み点を試算できるツールは「優良な育成就労実施者の配点」に用意しています。
監理支援機関が組合員企業に配れる形
加点⑨の該当例チェックリストや、継続学習の実施計画シートは、監理支援機関が自団体の名義で組合員企業へ配付し、日本語学習支援の実務を標準化するための材料としても使えます。組合員企業ごとに個別対応するのではなく、団体としての共通フォーマットを持つことで、記録の抜け漏れを防ぎやすくなります。この形での提供を検討する場合は、下記の個別相談でご相談ください。
よくある質問
A2目標講習を100時間受けさせれば、合格率は上がりますか?
100時間という時間数の要件を満たすことと、日本語試験に合格することは別の論点です。優良な育成就労実施者の配点では、A1相当試験の合格率が50%未満で−7点、A2相当試験の合格率が50%未満で−10点という減点区分が設けられています(運用要領4-118〜4-121頁)。講習の実施と試験の合格率は別の評価対象であり、講習時間だけから合格率を判断することはできません。項目Ⅰには、合格率(④⑤⑦)のほか、再受験率(②)、試験実施への協力(⑧)、講習以外の学習支援(⑨)も含まれます。
加点⑨の「講習以外の日本語学習支援」とはどんな内容ですか?
A1相当講習・A2目標講習以外に、費用を全額負担して行う日本語学習支援で、講師と育成就労外国人が同時に双方向に意思疎通がとれる形態で実施していることが必要です。単に教材のみを提供し独習を支援する形態、単に日本語学校を紹介するだけ、日本語学習のみの時間を設定するだけ、職員との日常会話の機会を増やすだけでは加点対象になりません(運用要領4-127頁)。該当例として、外部の日本語教室への金銭的支援、外部講師を招いての日本語教育、実施者自身が教材を用意して講習を実施することが挙げられています。
AIで学習すれば加点⑨の対象になりますか?
運用要領は、加点⑨の要件を「講師と育成就労外国人が、同時に双方向に意思疎通がとれる形態で実施していること」と定めており、単に教材のみを提供し独習を支援する形態は加点対象外と明記しています(4-127頁)。使用するツールの種類にかかわらず、講師との同時双方向のやり取りを伴わない自習形式である限り、この要件を満たしません。
自主学習支援を就労時間中に行う場合、労働時間になりますか?
受講時間が当然に労働時間となるわけではありませんが、参加を義務付け、使用者の指揮命令下で受講させるなど業務として行う場合は労働時間となり、賃金の支払の対象になります。運用要領は、雇用契約に基づく就労開始後に育成就労実施者が講習を実施する場合について、「育成就労外国人の参加を強制して業務として行う場合は、労働基準法上の労働時間として賃金の支払対象となる」としています(運用要領4-48頁)。個別の判断は社会保険労務士等にご確認ください。
無料の教材(いろどり・みなとなど)だけで進めるとどんな問題がありますか?
無料の自習教材は、本人が自分のペースで学べる点で有用ですが、講師との同時双方向のやり取りを伴わないため、加点⑨の要件には該当しません(4-127頁)。加えて、自習形式には進捗を外側から把握する仕組みが備わっていないことが多く、学習が止まっていること、目標水準までの距離がどう変化しているかを、企業や監理団体の側から把握しにくくなる点に注意が必要です。
継続学習の状況を監理支援機関と共有する必要はありますか?
制度上、監理支援機関には、実習監理・監理支援を行う実施者が育成就労外国人の技能等の評価を行うに当たり、必要な指導及び助言を行う役割があります(技能実習法の現行規定である第39条第2項と同趣旨の枠組み)。受験の期限、スコアの推移、学習の停止の3項目を記録し、監理支援機関と共有できる状態にしておくことが、指導・助言を実効的にする土台になります。記録の持ち方は「外国人社員の日本語学習「進捗が見えない」を測る3項目」で扱っています。
公式出典と未確定事項
- 出入国在留管理庁・厚生労働省「育成就労制度運用要領(令和8年8月版)」(4-48頁、4-49頁、4-118〜4-121頁、4-127頁)
- 技能実習法(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)第39条第2項(監理団体の指導・助言義務)
- 国際交流基金 日本語国際センター「いろどり 生活の日本語」/「JFにほんごeラーニング みなと」(無料の自習教材。詳細・最新版は各公式サイトでご確認ください)
未確定・個別確認が必要なもの
- 加点⑨に要する費用が、監理支援費として実費請求できる範囲は、一次資料の範囲では確定できていません
- 模試・サンプル問題の実施結果と、正式な受験結果との相関は一次資料で確認できておらず、あくまで参考値として扱っています
- 本記事は制度の一般的な説明であり、個別の学習計画の作成・審査・認定可否の判断は行いません
この記事の確認情報
公開日:2026-09-18/最終事実確認日:2026-09-18/編集・事実確認:FRM Journal編集部
本記事は制度の一般的な説明であり、報酬を得て業として官公署に提出する書類を作成すること等には行政書士法その他の法令による制限があります。当編集部(当社)は個別の申請書の作成・添削・記載内容の判断、労務・税務に関する個別の判断を行いません。個別案件については行政書士・社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。内容の誤りや更新漏れは編集部へ訂正をご連絡ください。
受験・合格状況を早めに把握する仕組みについて意見を伺う
公表資料に基づく制度要件と準備論点の一般的な整理(加点⑨の該当例、継続学習の記録の残し方)を30分で行います。あわせて、受験・合格状況を早めに把握する仕組みについて、貴社・貴組合のご意見を伺えればと考えています。個別案件への当てはめ、書類の作成・添削は行いません。その場で導入を決める必要はありません。
オンライン/無理な営業はしません/個別の申請書の作成・添削・記載内容の決定・認定可否の判断は行いません。必要な場合は行政書士等をご案内します
無料資料・個別相談などのご案内を開く
日本語講習 計画・証跡キット(無料PDF)
講習の時期・必要時間、人数別の予算整理、委託先の確認項目をまとめた「準備・予算設計ガイド」です。第3面の記入見本(一般例)、講習実施計画の整理シート、証跡チェックリスト、受講・受験管理台帳、受入企業向けA2講習説明も収録しています。フォーム送信後、すぐにPDFをダウンロードできます。営業電話は一切しません。