結論|通じない原因は「本人の努力不足」より先に「伝え方と環境」を点検します。現場は伝え方を整え、基礎の日本語は講習に任せます

  • 技能実習では、入国後講習の科目に日本語が含まれますが、入国時にどの程度の日本語力があるかを一律に保証する仕組みは、運用要領(令和8年4月版)の共通部分では確認できませんでした。入国直後は、日本語力に個人差があるのが前提です。
  • 「やさしい日本語」は出入国在留管理庁と文化庁のガイドラインに作り方がまとまっています。一文を短くする、曖昧な表現を避ける、数字と時間を具体的にする、図や写真を使う、が中心です。運用要領も、指導のときに「やさしい日本語」を意識するよう求めています。
  • 安全に関わる指示は、厚生労働省の指針が「理解できる方法」で行うこと、標識は図解を使うことを求めています。「分かりましたか」と聞くだけでなく、本人にやってもらって確かめる方法が有効です(この確認方法は編集部の整理です)。
  • 日本語の基礎を作るのは、入国後講習や日本語学習支援です。現場の言葉(工具・工程・合図)は現場で教えます。役割を分けて、監理団体に何を頼むかを決めておきます。

根拠:出入国在留管理庁・厚生労働省「技能実習制度 運用要領(令和8年4月)」p.72〜73・p.97、出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」、厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」第四の三

「何度説明しても伝わらない」「分かりましたと言うのに、できていない」。技能実習生を受け入れた現場責任者や人事の方から、よく聞く悩みです。この記事は、受入企業の現場責任者・人事の方に向けて、なぜ通じにくいのか、現場で今日からできること、講習や学習支援に任せること、そして育成就労では何が変わるかを、公的資料の範囲で整理します。

日本語の力は、学び始めの時期には個人差が大きく、伸びる途中にあります。本人を責める話ではなく、受け入れる側の伝え方を整える話として書きます。個別の実習生の日本語力の判定や、特定の教材の効果の保証はしません。

なぜ通じにくいのか|制度上の位置づけと、日本語レベルの目安

入国後講習に「日本語」が入っている

技能実習(第1号)の入国後講習は、技能実習法施行規則第10条第2項第7号で、日本語、本邦での生活一般に関する知識、法的保護に必要な情報、円滑な技能等の修得に資する知識の4科目が定められています。総時間数は、第1号技能実習の予定時間全体の6分の1以上です。過去6か月以内に、国外で1か月以上かつ160時間以上の入国前講習を受けた場合は12分の1以上になります(運用要領 p.72)。

運用要領は、日本語の位置づけを次のように説明しています。「技能実習が行われる現場においては、日本語による指導やコミュニケーションが行われるのが通常」であり、「技能実習の遂行や日常生活に不自由しないレベルに達することができるよう入国後講習を行うことが望まれます」(p.73)。つまり、制度は「講習で日本語を整える」ことを求めています。一方で、日本語の科目の時間数は、実習生の力に応じて実施者が適宜定めてよいとされています。試験に合格済みで日本語の講習期間を短くしても、入国後講習の総時間は減らせません(p.76)。

入国時点で、一定の日本語試験の合格を一般的な要件とする記載は、運用要領の共通部分では確認できませんでした。介護など個別の職種に別の基準があるかは、今回の確認では扱っていません。実習生ごとの日本語力は、送出し時の準備や本人の学習歴で幅があると想定しておくのが安全です。

A1・A2は「現場の速い指示」を聞き取れる水準ではない

日本語力の目安として、育成就労では「日本語教育の参照枠」のA1・A2が使われます。文化庁の参照枠は、A1を次のように説明しています。「具体的な欲求を満足させるための、よく使われる日常的表現と基本的な言い回しは理解し、用いることもできる。(中略)もし、相手がゆっくり、はっきりと話して、助け船を出してくれるなら簡単なやり取りをすることができる」。A2は「ごく基本的な個人情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる」とされています。

どちらも「基礎段階」です。ゆっくり、はっきり、助けがあれば簡単なやり取りができる、という水準です。この到達の記述だけでは、早口の指示、略語、専門用語、方言を聞き取れることまでは保証されません。現場で通じにくい場面があるのは自然なことです。

通じにくくなる典型的な場面(編集部の整理)

次の表は、やさしい日本語ガイドラインが避けるよう挙げている表現を、現場の言葉に当てはめたものです。「何が通じにくいか」を探すときの点検表として使えます。

場面通じにくい言い方の例理由(ガイドラインの記載)
1文に複数の指示「機械を止めて、カバーを開けて、中の刃を外してから拭いておいて」一文に複数の内容があると理解が難しくなる
曖昧な量・時間「少し待って」「10時ごろに来て」「もうちょっと右」「くらい」「ごろ」など曖昧な時間・数字の表現は多用しない
カタカナ語・略語「ロット」「ストック」「検品」「ヒヤリ」外来語・略語はできる限り使わない
否定が重なる表現「これを使わないといけないわけではない」二重否定は使わない
2つの意味がある語「結構です」「大丈夫です」「結構です」は「良いです」と「要りません」の両方になり、誤解を生む
受身・使役、遠回しな敬語「こちらでご確認いただけますか」受身・使役はできる限り使わない。敬語は丁寧語(です・ます)だけにする

現場でできること|やさしい日本語・指示の出し方・図や実物

やさしい日本語の公的ガイドライン

「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(2020年8月、出入国在留管理庁・文化庁)は、国や地方公共団体が情報を作る場面を主に想定していますが、外国人労働者が働く企業での活用も期待すると明記しています。書き言葉に焦点を当てた資料なので、話し言葉にそのまま当てはまるとは限りません。ただ、言葉の選び方の原則は、現場の指示にも使えます。運用要領も、指導の場面で「やさしい日本語(難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮した分かりやすい日本語)を意識する」ことを求めています(p.97〜98)。

ガイドライン第2章(7〜10ページ)の主な作り方を、現場の指示に当てはめた例です。

ガイドラインの原則現場の言い換え例(編集部作成)
一文は短くする。言いたいことは1つ「機械を止めます。」「カバーを開けます。」「刃を外します。」と1つずつ区切る
3つ以上のことは箇条書きにする手順を、番号をつけて1行1動作で書く。写真を横に添える
曖昧な時間・数字は避ける「10時ごろ」ではなく「10時から10時10分までに」。「少し」ではなく「5ミリ」など測れる数に
外来語・略語は使わない現場で使う語は、言い換えるか、実物を見せて「これはロットです」と教える
重要な言葉は、そのまま使って説明を添える安全に関わる語(危ない・止まれ・触らない)は同じ語で統一し、意味を実物・図で示す
イラスト・写真・図や記号を使う手順書、掲示、工程表は写真と図を中心にする
漢字にふりがなをつける。数字は具体的に掲示・配布物は、ふりがなつきにする。年月日・時間も「午前8時30分」のように書く

安全に関わる指示は、制度が求める方法で行う

厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」第四の三「安全衛生の確保」は、次の趣旨を定めています。

  • 安全衛生教育は、母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、外国人労働者が内容を理解できる方法で行う。特に、機械等や原材料等の危険性・有害性と取扱方法が確実に理解されるよう留意する(第四の三の1)。
  • 労働災害防止のための指示等を理解できるよう、必要な日本語と基本的な合図等を習得させるよう努める(同2)。
  • 労働災害防止に関する標識・掲示は、図解等を用いて、理解できる方法で行うよう努める(同3)。

厚生労働省は、外国人労働者向けの安全衛生教育教材として、マンガ形式の視聴覚教材を11言語で公開しています(職場のあんぜんサイトなど)。自社の教育でそのまま使えるかは、業種と内容に合わせて確認してください。

「分かりましたか」の代わりに、確かめる方法(編集部の整理)

ここからは、一次資料に記載された手順ではなく、編集部が整理した一般的な進め方です。「はい、分かりました」という返事は、理解した合図ではなく、聞き続けるための合図であることがあります。次のように確かめると、行き違いが減ります。

  • やって見せてもらう: 作業の手順なら、指示のあとに本人が1回やってみる。危険な作業は、安全な形で動作だけを確認する。
  • 言ってもらう: 「分かりましたか」ではなく「何を、いつ、しますか」と聞く。答えの一部でも言えれば、どこまで伝わったか分かる。
  • 指示を1回に1つにする: 次の指示は、前の作業が終わってから出す。
  • 実物・写真・図を先に見せる: 言葉の説明より先に、物と動作を見せる。
  • 指導する人を絞る: 人によって言い方が違うと、同じ作業に別の言葉が混ざる。工程ごとに同じ言葉を使う。
  • 現場の言葉を一覧にする: 工具・設備・工程・合図の言葉を、写真つきで10〜20語まとめる。実習生と一緒に更新する。

通訳や母語での補助を使える場合は、安全衛生教育のように「確実な理解」が必要な場面に絞って使うのが、指針の考え方(母国語等を用いる)と合っています。

通じないときの言葉づかい

運用要領は、指導について「文化や言語の理解力等の違いなどから指導する側の意図に反して誤って伝わってしまい、極めて深刻な結果となってしまうことがあります」と述べています(p.97)。技能実習生に対する人権侵害で行政処分等を受けた事案として、仕事を覚えないことに対して「国に帰れ」と発言した例などが挙げられています(p.98)。通じない苛立ちを、強い言葉や行為に出さないことは、前提として守る必要があります。

日本語講習の計画・証跡と、受入企業向けの日本語講習の説明を1冊で

公表資料に基づく日本語要件の整理、講習の計画シート、証跡のチェックリスト、受入企業向けのA2講習の説明を1冊にまとめた無料PDFです。監理団体に何を頼み、現場は何を担うかを整理するときに使えます。営業電話はしません。

講習・学習支援に頼ること|監理団体との役割分担

現場の工夫だけでは、日本語の基礎は積み上がりません。講習と学習支援は、次のように分けて考えると整理しやすくなります(役割分担の表は編集部の整理で、個別の契約内容は監理団体との取り決めによります)。

担い手主な役割根拠・備考
監理団体入国後講習の実施(自ら、または適切な者へ委託)。日本語科目の時間と内容の設計運用要領 p.72。団体監理型の第1号では監理団体が実施主体
受入企業(現場)作業指示の伝え方、手順書・掲示の整備、安全指示の確認、日常のやり取り指針 第四の三。運用要領 p.97
受入企業(学習支援)通学費用の支援、登録日本語教員や外部講師による講習の手配、自社での教材準備と講習運用要領 p.128〜129(優良な実習実施者の評価項目)
講習の提供者認定日本語教育機関、登録日本語教員など。基礎の日本語と学習の継続講習の探し方は「日本語講習の講師が見つからないとき」

日本語学習支援は、優良要件の評価にもなる

運用要領の優良な実習実施者の評価項目には、地域社会との共生(最大10点)の中に「受け入れた技能実習生に対し、日本語の学習の支援を行っていること」(4点)があります。認定日本語教育機関または登録日本語教員を活用している場合は、さらに3点が加わります。該当する支援の例として、認定日本語教育機関への通学の金銭的支援、登録日本語教員を招いた日本語教育、自社で教材を用意して行う講習、外部講師を招いた日本語教育が挙げられています。「単に日本語学校の紹介をすること、日本語のみの時間を実習中に設定すること、職員との日常会話の機会を増やすことといった対応のみ」では該当しないとされています(p.128〜129)。

監理団体に確認するとよいこと(編集部の整理)

  • 入国後講習の日本語科目は、何時間・どの教材・誰が実施したか(受入企業にも共有してもらえるか)。
  • 入国後の定期的な面談で、日本語の理解度をどう見ているか。現場で通じにくい場面の相談に応じてもらえるか。
  • 入国後の日本語学習の継続を、団体として支援しているか。受入企業が費用を出す場合の手配先。
  • 受入企業側の窓口は誰か。現場の指示の伝え方の相談先はどこか。

日本語の学習が進んでいるかを見る視点は「外国人社員の日本語学習「進捗が見えない」を測る3項目」で整理しています。実習生の管理業務全体は「技能実習生の管理業務を法令で整理」を参照してください。

育成就労では何が変わるか|A1・A2の要件

育成就労制度(2027-04-01施行)は、日本語の要件を制度の柱に置いています。技能実習との主な違いを、運用要領(令和8年8月版)に沿って整理します。

時期日本語の要件受入企業に関係すること
就労開始前A1相当の日本語能力の試験に合格するか、認定日本語教育機関の「就労のための課程」でA1相当講習を100時間以上受講する(入国前講習で行うことも可)育成就労は、就労開始前にA1相当の日本語能力を身に付けることを前提にしている(運用要領 p.4-43)
入国後講習A1相当試験に合格していない場合は総時間320時間以上、合格している場合は220時間以上(入国前講習の算入要件を満たす場合は160・110時間以上)実施主体は監理支援機関。内容は「育成就労の日本語要件」で解説
就労開始後〜1年就労開始前にA1相当の試験に合格していない場合は、A1相当の日本語試験を受験させる受験させる義務はあるが、合格させる義務ではない。「日本語試験はいつ・何回受けさせるか」
3年間A2相当を目標とする講習を100時間以上受講する。終了時の目標は原則A2相当(分野によってはより高い水準)受入企業には、試験を受験させるまでの間に受講の機会を提供する義務がある。希望に応じた講習費用の負担と、受講できる環境を整えることが求められる。受講時間を労働時間とする義務はない(p.4-49〜50)

つまり、育成就労では「入国前にA1の準備があり、就労開始後は受入企業が学習の機会を提供する」流れが制度に入ります。現場で日本語の通じにくさに困る状況が、制度の上で完全になくなるわけではありません。今回の記事の「やさしい日本語」と「確かめる方法」は、制度が変わっても、そのまま使えます。

日本語の達成度は、優良な育成就労実施者の評価にも使われます(日本語側の配点は28点、既存記事「優良な育成就労実施者の配点|項目Ⅰ 日本語28点・技能22点の内訳」で整理しています)。講習の準備の手順は「育成就労の日本語講習|準備手順・体制設計・証跡の整え方」、入国後のA1講習は「入国後A1相当講習100時間の要件」を参照してください。

よくある質問

「分かりました」と言うのに、できていないのはなぜですか?

理由は1つに決められませんが、聞き返しにくい、分からない部分をうまく言葉にできない、という場合があります。編集部の整理では、「分かりましたか」と聞く代わりに、本人にやって見せてもらう、内容を言ってもらう、指示を1回に1つにする、の順で試すと、どこが伝わっていないかを特定しやすくなります。

技能実習生は、入国時に日本語の試験に合格している必要がありますか?

運用要領(令和8年4月版)の共通部分では、入国時の日本語試験の合格を一般的な要件とする記載は確認できませんでした。入国後講習に日本語の科目があり、総時間は第1号技能実習の予定時間の6分の1以上(入国前講習の要件を満たす場合は12分の1以上)です。介護など個別の職種の基準は、監理団体または職種の運用要領で確認してください。育成就労では、就労開始前にA1相当の試験合格または100時間以上の講習が必要です。

やさしい日本語では、敬語を使わないのは失礼になりませんか?

ガイドラインは、文末を「です」「ます」で統一し、尊敬語・謙譲語は使わず、敬語は丁寧語だけにするとしています。失礼にするための決まりではなく、相手が理解しやすい言葉を選ぶための原則です。丁寧な態度で伝えることは、運用要領も求めています。

通訳や母語での説明は、使ってよいのですか?

厚生労働省の指針は、安全衛生教育などで母国語等を用いることを例示しています。安全に関わる内容や、労働条件の明示のように確実な理解が必要な場面で活用すると効果的です。

更新履歴と未確認事項

  • 2026-10-01 公開。
  • 未確認: 介護など個別の技能実習職種で、入国時に求められる日本語の水準(職種別の運用要領)。
  • 未確認: 厚生労働省の指針の改正の有無(本稿は2026-10-01に掲載されていた本文で確認)。
  • 公表待ち: 育成就労の日本語講習のモデルカリキュラム(令和8年度中に公表予定と運用要領に記載)。

出典一覧

本記事は制度の一般的な説明です。個別の事案の判断や、申請書類の作成・添削は行いません。

FRM
編集部
Author
FRM Journal 編集部
外国人材マネジメント専門メディア
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